武川建築設計事務所


設計事例


中山道の家

築40年を超える空き家の改修です。

敷地は岐阜県鏡島。豊臣秀吉の時代から長良川の船運湊として栄えた町で、中山道沿いには賑わった町の名残を感じさせる旧家が多く点在しています。そんな歴史のある町の一角にある敷地です。

既存建物は何度か改修された跡が残っており、それなりに手を入れてある様子はありましたが耐震性能や断熱性能は望むべくもあらずで、間取りも無駄に広い玄関ホールや小さく区切られた居室群、北東側に配置された寒々しい水回り、使われない広縁と、現代の生活にはそぐわない状態でした。

本プロジェクトも岐阜で木の家を建てることを得意とするWOODYYLIFEさん(ひだまりほーむグループ)との協業でありリノベーションのモデルハウスとするにあたって、今後多く残っていく同様の建物はどのように活用していくべきなのか何度も打ち合わせを重ね、方針を練りました。

まずは住宅の性能を改修でありながら新築同様もしくはそれ以上とすることを目指しました。
この年代の住宅の基礎は鉄筋が入っていないことが多く強度も弱いのですが、新たに鉄筋入りの基礎を添えるように打設し、足元の強度を確保します。これまでの地震や木材の乾燥でズレている木組みは調整・補強し、腐朽した水回りの木材は取替え、そしてわずかに筋交いが差し込まれただけの心もとない壁には、全面に構造用の面材と揺れに耐える金物で耐震補強を施します。

改修に於いては建物の経年変化による歪みがある為、特に気密施工が難しいとされる断熱工事もセルロースファイバーの充填工法によって徹底して改善しています。

間取りはできるだけ個室に区切らない広がりのある居住空間を作ると共に使われなくなった広縁は屋外化し、居間と庭をつなげる半外部空間としています。負担が大きくなる家事動線も整理し、キッチンから洗濯、物干し、ゴミ出しなどの生活行為が効率的に行えるようになっています。自宅での時間が多くなることが予想されるこれからの生活を見越して、日当たりや見晴らしの良い場所にワークスペースを置き、テントを張れるほどの大きく張り出したデッキなども設けています。

また、使用する構造材や仕上材などもできる限りこの地域で生産・加工されたものを使用するようにしています。県産材の杉や桧を始め、岐阜漆喰や飛騨の手漉き和紙、美濃のタイルなど。家具も高山の飛騨コレクションさんに協力いただき、匠の技を奮っていただきました。こういったものを使うことで長く積み重ねられてきたその地域の伝統や習慣のようなものを僅かながらでも後代へつなげていくことができるのではないかと考えています。


敷地前面には幹線道路が走り、周囲も現代的な店舗や鉄骨造の建物にかこまれています。年月とともにその土地の色は徐々に失われ、川沿いの土手に建てられた看板だけがその事実を語っていましたが、こういった試みを通して地域の文化や伝統を見直すきっかけとなれば、と思います。


※「2021年 RENOVATION OF THE YEAR 2021 地域貢献リノベーション賞」を頂きました。

作品情報
用途 住宅(モデルハウス)
所在地 岐阜県
構造 木造在来工法(改修)
規模 2階建て
敷地面積 200㎡
建築面積 80.6㎡
延べ床面積 135.9㎡

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